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アンリ・デュパルク  Henri Duparc (1848−1933) フランス
旅への誘い  詩:シャルル・ボードレール L'invitation au Voyage  Charles Baudelaire (1821-1867)

我が子よ 我が姉妹よ
甘美なる夢を見よう
彼の地で共に暮らすことを
自由を愛し
互いに慈しみ そして死ぬ
お前にも似たその国で
太陽は滲む
靄に覆われた空に
いとも神秘なる力で
私の精神を魅了する
お前の裏切りの瞳
それは涙を通して輝くのだ
そこでは秩序と美しさだけがすべて
壮麗にして静寂 そして快楽

歳月が磨き上げた
光沢ある家具は
私たちの部屋を飾るだろう
珍しい花々の香りが
琥珀のほのかな香りに
溶け合うだろう
華やかな天井
深い鏡
東洋のきらめき
それらすべてが私たちの心に
その故郷の優しい言葉を
そっと語りかけるだろう
そこでは秩序と美しさだけがすべて
壮麗にして静寂 そして快楽

ごらん 運河に眠る
気まぐれで移り気な
船たちを
それはお前のささやかな
欲望を満たす為に
この世の果てからやって来たのだ
沈みゆく太陽は
野原を包み込む 
運河を 町全体を
赤紫に 金色に
世界は熱い光の中で
眠りにつく
そこでは秩序と美しさだけがすべて
壮麗にして静寂 そして快楽

Mon enfant, ma sœur,
Songe à la douceur
D'aller là-bas vivre ensemble,
Aimer à loisir,
Aimer et mourir
Au pays qui te ressemble.
Les soleils mouillés
De ces ciels brouillés
Pour mon esprit ont les charmes
Si mystérieux
De tes traîtres yeux,
Brillant à travers leurs larmes.
Là, tout n'est qu'ordre et beauté,
Luxe, calme et volupté.

Des meubles luisants,
Polis par les ans,
Décoreraient notre chambre,
Les plus rares fleurs
Mêlant leurs odeurs
Aux vagues senteurs de l'ambre
Les riches plafonds,
Les miroirs profonds,
La splendeur orientale
Tout y parlerait
À l'âme en secret
Sa douce langue natale.
Là, tout n'est qu'ordre et beauté,
Luxe, calme et volupté.

Vois sur ces canaux
Dormir ces vaisseaux
Dont l'humeur est vagabonde;
C'est pour assouvir
Ton moindre désir
Qu'ils viennent du bout du monde.
Les soleils couchants
Revêtent les champs,
Les canaux, la ville entière,
D'hyacinthe et d'or;
Le monde s'endort
Dans une chaude lumière!
Là, tout n'est qu'ordre et beauté,
Luxe, calme et volupté.

 この詩は、当時ボードレールと親密な関係にあったマリー・ドーブランのために書かれたといわれています。ここに描かれている二人で暮らす夢の地は、オランダを思わせます。それは2年後に発表された同じ題名の散文詩で、よりはっきりしたものとなります。想像の中で実現した二人の理想郷、西洋の中の東洋、秩序と美の世界、壮麗、静寂、快楽に満たされた暮し。
 デュパルクは第1、3節のみに作曲しました。始めの「我が子よ 我が姉妹よ(Mon enfant, ma sœur)」は、愛しい人のことをさしています。夢幻の理想郷が霧の中から浮かび上がってくるかのようなピアノの響きに誘われ、伸びやかな旋律に乗せて熱い願いが歌われてゆきます。最後に置かれたリフレインで音楽はその歩みを止め、印象的な和音の響きの中で、その理想が淡々と語るように歌われます。第2節の「沈みゆく太陽 (Les soleils couchants) からは拍子がかわり(6/8から9/9に)、ピアノは高音域で弧を描くようなアルペジオを奏でます。音楽はよりいっそう自由さを増し、「熱い光の中で (Dans une chaude lumière!)」で頂点を迎える展開は見事です。アルペジオはそのまま静まってゆき、歌のパッセージがピアノで思い起こされながらリフレインが歌われます。そしてアルペジオは次第に緩やかになり、夢幻の彼方へと消えてゆきます。

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