ヴェルレーヌの詩集「艶やかなる宴(Fêtes galantes)」の冒頭の詩です。「あなたの魂(Votre âme)」とは、18世紀ロココ時代のフランスの画家ヴァトー(Antonie Watteau 1684-1721)を指しているといわれています。この詩集は、ヴァトーの絵からインスピレーションを得て書かれたものなのです。ヴァトーの描いた典型として「艶やかなる宴」の絵と呼ばれるものがあります。田園や庭園に集った複数の男女が愛を語り合う、その様子を描いたものです。ヴァトーはまた、当時流行したイタリア古典喜劇(commedia dell'arte)の役者を沢山描いています。イタリア古典喜劇は16世紀北イタリア、ベルガモを中心とした地域で生まれました。アルレッキーノ、コロンビーナ、パリアッチなどの典型的なキャラクターが登場し、恋愛や不倫、世相などを、即興的に面白可笑しく演じるお芝居です。ヨーロッパ全域に広く伝わり、シェイクスピアやモリエールなどの古典演劇のみならず、オペラやパントマイムにも影響を与え、ピエロやクラウンなどの道化の原型ともなりました。ベルガモ風ーベルガマスク(bergamasque)とは、このイタリア古典喜劇の衣装や様式、雰囲気を指し、ドッビュッシーのピアノ曲「ベルガマスク組曲」のイメージの源泉でもあります。
　仮面を付け、きらびやかな衣装を纏い、その心に悲しみを隠しながら明るく滑稽に振る舞う役者たち。そこに集団見合いの「艶やかなる宴」のイメージが重なり、すべては月の光のなかで一つに混ざり合ってゆくのです。「艶やかなる宴」を発表したころのヴェルレーヌは、飲酒と放蕩とで荒れた生活を続けていました。それは初恋の人エリーザの死が原因だといわれています。恋愛に対してシニカルな冷めた感覚を抱いていたのでしょう。
　　フォーレはこの曲に、メヌエット〜Menuetと副題を与えています。メヌエットは古い舞曲で、ゆるやかな3拍子。1拍目にアクセントが置かれ、優雅に踊られる宮廷舞曲です。ピアノが常に主旋律を奏で、歌はむしろそれに寄り添うように歌われます。この主旋律の冒頭は、４分の３拍子でありながら、２小節を一つにした２分の３拍子のようにも聞こえます。これはヘミオラとよばれ、バロックから古典音楽において音楽の終止形でよく用いられました。また、その旋律を支える低音は休符からはじまる分散和音です。これでは音楽の安定感は少しも得られません。しかしこれらの要素により、音楽は、どこかはかなげで典雅な気分を見事に表現しています。それはまさに月の光の下で繰り広げられるかつての「艶やかなる宴」を幻想的にイメージさせてくれます。第2節「短調の調べにのせて」というところを、フォーレは短調でも長調でもない旋法で歌わせています。心憎い表現です。第3節では豊かな分散和音が現れます。まるで月の光に全てが包み込まれるように。実に幻想的で、はかなく美しい音楽です。